かねて知を恐れたまえ

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《レザーフェイス~悪魔のいけにえ》ネタバレ感想――誰の為に作られた映画だろう?

【マスクを被った正体不明の巨体が追いかけてくる】。

三大ホラー映画の共通点である。

通説では《13日の金曜日》《ハロウィン》《エルム街の悪夢》を指して三大ホラーとする事が多いようだが、今回はこのマスクを重要視して、フレディ・クルーガーの代わりにレザーフェイス、《悪魔のいけにえ》を入れる。

フレディはあれ素顔だから。火傷の無い頃も出てくるけど。

 

そう、素顔。

常にマスクを被っているのがトレードマークなのだから、基本素顔は見えない。

だから怖い。

何者かわからない。表情も見えない。極論を言えば“顔”があるのかどうかも…

この、素顔に纏わる描写が三作品ともに見事であり、この三本がホラー映画に留まらず映画史上の名作と言われる理由のひとつになっているとすら思っている。

 

今描写と書いたが、実は御三方ともシリーズ内でその素顔を晒しておられる。

ジェイソン・ボーヒーズ。

13日の金曜日》第一作ではホッケーマスクどころか犯人ですらないわけだが、ラストに生き残った少女の悪夢の中に少年時代の姿で現れる。湖の中からザバアッと、ほんの一瞬。醜く生まれついたらしいがよくわからないほど一瞬だ。見事な演出。

ただ、彼はその後に続く続編で大人になってがっつりマスクを外している。

回を重ねるごとに醜さがアップしてゆくジェイソン氏だが、個人的に第四作目《完結編》の素顔が一番好き。子供の頃初めて観た時は本当に驚いたし。人類が誇るトム・サビーニ氏の仕事には、幼少期のうちに触れるべし。

マイケル・マイヤーズ。

続編が枝分かれしてなんだか大変なことになっている《ハロウィン》シリーズだが、そんなマイケル氏も第一作で外して…いや、外れてしまう場面がある。

これまた、ほんの一瞬。

ただ、その下に垣間見える顔が…“ただの人”なのだ。はっきり言って、思い出せないほどこれといった特徴の無い…と言っては演じた方に失礼だが、これは監督の意図したところだろうと思われる。マイケル・マイヤーズという存在を、都市伝説のようにする為にあえて印象に残らない平凡な顔にした。しかも、マスクが外れて大慌てで被り直す。それまで物音ひとつ立てずに近寄り、声も一切出さずに襲い掛かってきたマイケルがほんの一瞬“ただの人”になる怖さ。

ジョン・カーペンター作品って、必ずどこかに他の人間には真似の出来ない演出がある。私が彼を天才と思う所以である。

 

さて。

いよいよレザーフェイスの登場。

彼は二人とは異なり第一作では素顔を出していない。せいぜいガタガタの歯並びくらいしか見えない。その後に制作されたリメイク版ではじめて素顔が見える。ちなみに《悪魔のいけにえ》シリーズは《ハロウィン》以上にカオスな状態になっている。

続編、リメイク、さらにその続編…まあいかにこの殺人一家が人気あるのか、というより、話を作りやすいのかもしれない。

悪魔のいけにえ》オリジナル第一作目は、一家の素性が全く描かれていない。

理由などない、ただ狂っているのだ(ここ、重要)。

なんで?を説明してしまうと怖さ半減、魅力も半減という物語は多々ある。どこまで説明するのか、どこまで見せるのかが監督の力量。

そして《悪魔のいけにえ》も上記二作と同様、“説明の無さ”が素晴らしい。

これはたぶん、最近の映画(…と一括りにしてしまうのもよくないが)で完全に欠落しているところ。ホラー映画に限らず、説明し過ぎで情緒も余韻も無くなってしまっている作品がたくさんある…。

 

本題。《レザーフェイス悪魔のいけにえ》である。

レザーフェイス誕生秘話という、もう完全な説明映画がきた(なんだ、そのジャンル)。

いや、観る前から否定することはしない。

映画だもの。“面白ければいい”というのが基本だから。

だがしかし。

とにもかくにも、鑑賞後の最初の感想は…

 

「このレザーフェイス、どこに需要があるんだろう」。

 

物凄く簡単にストーリーを書くと…

殺人大好き一家に生まれたジェデダイア少年(通称ジェド君)は五歳の誕生日プレゼントにチェーンソーをもらうが、ひとりマトモな理性の持ち主らしく、それで人を殺す事は躊躇してしまういい子。兄たちに促されて少女殺人を手伝わされてしまうが、それが原因で精神病院へ。数年後、暴動に紛れて患者仲間と脱走。イカれたカップルと親友の太っちょ・バド君と人質の看護師の五人の逃亡劇が始まるが、相変わらず殺人や暴力はお嫌いらしく、カップルの蛮行にやきもきしている。かつて殺された少女の父親である保安官が執念で追いかけてくるのだが、親友を殺されてようやく理性の吹っ飛んだジェド君がチェーンソーで仕留める。母親から悪魔の囁きをされて、よくしてくれた看護師も仕留める。看護師の顔の皮を剥ぎ取り、めでたくマスク制作に取り掛かるジェド君。レザーフェイス誕生であった――

 

一言よろしいか。

 

名前がババだろうがトーマスだろうがジェデダイアだろうが、

レザーフェイスはハンサムであってはならない。

なぜなら、元ハンサムなレザーフェイスなどかっこ悪いから。

ここはぜひともおさえておきたい。

悲惨な目に合う主人公はある程度の見た目でないと、観客が感情移入出来ないから…というのはわかる。オリジナルのファンからすればそんな形での感情移入などどうでもよいのだが、それはさておき、そもそもその主人公の、精神描写がよくわからない。

実はいい子だったというなんともセンスに欠ける設定には目をつぶるとして、なぜ彼がイカれちゃったのか?親友を殺されてプツッときちゃったのはわかる。でもどう考えても引き金は、母親からの「あなたなら出来る」的な誘導ではないか。

そ、それでいいのか?

そんな理由で世紀の殺人鬼が誕生しちゃっていいのか?

しかも母親からの囁きって…それはジェイソン…(ボソボソ)

そしてなぜ、女性でマスクを作った?保安官より肌の張りがよかったから?

説明映画なんだから、そこも説明するべきでは。

 

レザーフェイスはいろいろあって顔が大変なことになっちゃってるけど、もともとはきっとハンサムだったんだよね…なんて思っている《悪魔のいけにえ》ファンは全世界探してもいないだろうと思うが、この映画で初めてシリーズに触れて「かわいそうなレザーフェイス…」と思った後にオリジナルを観た人は、「なんかただのデブの殺人狂になってる!」とか感じないだろうか…

とするとこの映画、一体誰の為に、何の為に作られたのか…

主人公を演じたサム・ストライクのファンの為であろうか?

 

いや、どんなきっかけでもよいので一人でも多くの人にオリジナルに触れてもらえる機会があればよい、と私は思っている。今までもそうだったように、これからも、いつだって、人生変える体験をする人がいるだろう。

 

けっこう長く続いている名作ホラーのリメイク・続編ブームだが、どれを観ても結局は“オリジナルの良さを再確認する映画”となっている。だから控えめに言って、そろそろやめたほうがいいと思う。

 

いろいろと書いてしまったがいい点が無いわけではない。

母親役のリリ・テイラーをはじめ、みなさんいい演技をしている。

なんといっても本作品中実は一番狂気を孕んだ人物・保安官を演ずるスティーヴン・ドーフ!《セシル・B/ザ・シネマウォーズ》や《ツイてない男》など、いい映画にたくさん出てくれるいい役者!!だいぶ老けてきたが《タイタニック》主演を断った気合のある人、今後も活躍してくれる事を願っている。

あと監督のフランス人二人組は才能ある方々なので、早々にオリジナルの次の作品を撮ったほうがよい。

 

そしてこの映画、トビ・フーパー監督がプロデュースした最後の作品でもある。どの程度関わっていたかは定かではないが、これによって氏の偉大な業績に傷が付く事はない。あまりにも偉大過ぎる、からね…

 

最後に、映画館のロビーに貼ってあった映画関連の記事で(なんの記事か忘れてしまった…申し訳ない。たぶん映画秘宝かな?)、田野辺尚人さんの言葉に深く同調したと告白。

「テキサスには、チェーンソーで人を殺す一家がたくさんいる」

…なんと心広く、愛に溢れた言葉!!

 

テキサスの夏は永遠に血生臭いのだ。

テキサスの人にとってはいい迷惑だろうが、これは“名誉”だから!

 

愛してるよ、レザーフェイス!!

 

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